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  No.27  2019.6

●主な内容

  1. ユルリ島と紅茶 <岡田 敦>
  2. 山と北海道と絵 <山下 康一>
  3. 温かく貴重な時間 <竹川 智恵>
  4. 北のアルプ美術館と山旅会、藤江画伯 <恩田 俊二>
  5. 貴い小さな自然 アルプの林
  6. 階段手すり設置
  7. 当館掲載雑誌のご紹介
  8. 企画展のお知らせ 山下康一作品展−山を描く・沈黙を描く−(2019.10.2〜2020.9.27)
  9. 一年間の出来事 季節の便り 2018.6〜2019.5
  10. ご寄贈ありがとうございました
  11. おしらせ
  12. 編集後記

ユルリ島と紅茶     <岡田 敦>


「あなたはお腹の中にいた時、根室にいたんだよ」と母に言われ、僕は育った。僕が生まれる前、父が根室管内にある標津町の川北中学校で教鞭をとっていたからだ。実際に両親と兄が暮らしていた標津と根室はずいぶん離れているが、転勤族だった母は生涯僕にそう言い続けた。40年前、当時は町内に中学校が4?5校あって、町を流れる名もない川にも鮭が遡上し、農家の馬が放し飼いだったのか、住宅街に馬が歩いていたそうだ。そんな話を聞いて育ったせいか、僕は「根室」と聞くと故郷を思うようなどこか懐かしい気持ちになる。

 2011年から僕は根室半島沖に浮かぶユルリ島に通いはじめた。島で野生化した、かつての労働馬の末裔の姿を写真におさめるためだ。古くから船の停泊場として知られ、アイヌが住居し魚を獲っていたというユルリ島。戦後も昆布漁の干場として利用されるなど、長い歴史の中で人の営みが刻まれてきたが、現在は立入禁止の無人島となっている。島へ渡るためには許可も必要だが、一人で渡らないようにと言われている。

 この8年間、ユルリ島に渡る時はいつも根室に住むHさんに同行をお願いしてきた。ユルリ島に行けることをよく羨ましがられるが、写真家の撮影に同行するのは決して楽しいことではない。高山植物が咲く季節ならまだしも、厳冬期のユルリ島は野営をするテントの中が氷点下10度を下まわる。馬は元気に雪の下の笹を食んでいるが、カメラを持つ手が凍ってしまいそうな季節に外で夜を過ごすのは苦行以外のなにものでもない。Hさんは僕の父親とほぼ同じ年齢だ。これまで僕が切りとってきた何万枚ものユルリ島の写真にその姿は写っていないけれど、鳥がさえずる暖かな日も、地吹雪で震えるような日も、カメラを向けた反対側にはいつもHさんの姿があった。

 冬の星空の撮影を終えテントへ戻ると、「遅くまでご苦労さん」とHさんは温かい紅茶を淹れてくれる。かじかんだ手で紅茶を飲みながら、僕は時々不思議に思う。どうしてこんなに親切にしてくれるのだろうかと。そしてまた、自分もどうしてこんな遠くの島まできたのだろうかと考える。そんな時はいつも、母の言葉を思いだす。「あなたは根室にいたんだよ」という懐かしい言葉を。それはきっと、僕が出会った根室の人たちも同じなのだろう。僕のユルリ島での活動は、地域を思う心温かい人たちによって支えられている。

《写真家・東京在住》

 

 

山と北海道と絵   <山下 康一>


 幼少より自然が好きで、岩や木に登り川で泳いだりして遊びました。昔の普通の子供遊びができた最後の世代かも知れません。長じて谷川連峰、北アルプスに登り、もっと高い山を目指して海外へ、とはしかしながらならず、独学で山の絵を描き始めました。今思えば私は頂上に立つ事よりも、山の中にいるのが好きだったのです。そこで見ていたものを表現したいと思いました。

 北海道への憧れは中学二年の時に見た雑誌から。初めて北海道を訪れたのは二十歳の時。リュックを背負い歩いて一周しました。と言っても、当時はバイクが主流で自転車は少数、徒歩で周る者は珍しく、親切な地元の方の車に何度も拾って戴き、かなり楽をして回りました。以来ほとんど毎年訪れています。なぜ北海道に憧れたのか。本州には無い大自然への憧れ、普段見ている垂直方向の風景に対し水平方向の風景への憧れ。しかしこれも今にして思えば、山で見ていたものと同じものを探していたのでした。

 見ていたものは無常感と無限感です。最初は透明水彩の淡い色層を重ねてそれを表現したいと考えました。仏教の五蘊仮和合を想像していたのです。無常感はこれでイメージできたのですが、しかし無限感の表現は掴めずにいました。それは画材や技法の問題ではなく、私自身の問題でした。

 その後長い試行錯誤を経て、今は墨を使って描いています。私は絵を描くのではなく、絵ができる場の目撃者です。そこに無常感と無限感のつながりを見つけました。この秋から北のアルプ美術館で私の作品を展示して戴く事になり、望外の喜びを感じています。

《画家》

 


『戸隠西岳』 山下康一 画

 

 

 

 

温かく貴重な時間    <竹川 智恵

 
 斜里に暮らして10年。北海道新聞網走支局の記者として、仕事で通った時期を含めると13年になる。畑に秋まき小麦の緑の新芽が顔を出すと「春だなあ」と思い、悠々と空を飛ぶオオワシを見つけると「冬だなあ」と思うようになった。

 知床といえば、世界自然遺産の大自然とヒグマなどの野生動物。自然も動物も素晴らしいが、私がここで魅かれたのは、知床の自然を大切に思う「人」の存在だった。ヒグマと人との距離、増えすぎたエゾシカ、観光のあり方など課題の多い現場では、自然に向き合い、立場を超えて議論し、時にぶつかり合って試行錯誤するたくさんの人に出会った。不謹慎な言い方かもしれないが、おもしろい地域だなあ!と新参者の私は大きな衝撃を受けたのだった。

 多くの出会いの中でも、山崎猛さん、千寿子さんとの出会いは特別なものだった。縁あって、北海道新聞夕刊「私のなかの歴史」の連載で山崎さんを担当することになり、何度もご自宅に通って話を伺った。乙部で過ごした少年時代や斜里の書店で働いた青年時代、偶然だった雑誌「アルプ」との出合い、独立後の苦労や家族への思い、串田孫一さんらとの交流、北のアルプ美術館の開館…。全14回の連載に収まらないほど豊富な話題があった。写真家でもある山崎さんが写真集「日本の灯台」の制作中、全国で目にした民俗芸能や風習の話はとても印象に残っている。

 取材は通常業務が終わった後、いつも夕方から夜にかけてだった。山崎さんのドラマチックな人生を詳しく聞いていると、一本の長い映画をじっくり味わっているようで、網走までの帰り道、余韻にひたって幸せな気持ちになった。当時は毎日忙しくかけ回っていたが、本当に温かく貴重な時間だったと思う。

 その後私は退職し、いち斜里町民になった。地域ミニコミ誌「シリエトクノート」の制作に携わる中で、最近は私と同じ30代やもっと下の世代の友人・知人が美術館を訪れ、アルプの世界に魅了される姿を多く見ている。アルプが伝えた自然賛歌の心は、山崎さんの情熱とともに、これからも斜里で息づいていくのだろう。

《シリエトクノート編集部》

 

北のアルプ美術館と山旅会、藤江画伯 <恩田 俊二


 私が北のアルプ美術館を初めて訪れたのは2012年の7月。山歩きの合間に訪ねた。特に予備知識もなかったが、ひっそりと、しかししっかりとした意志を持って運営されている美術館と感じた。そんな中で2階の展示室に藤江幾太郎画伯の油絵が数点展示されているのを見つけた。

 私は東京の「山旅会」という山の会に所属しているが、この会は昭和30年創立という長い歴史を持っている。その創立当初からのメンバーで、後に画家としての地位を確立されて白日会会員となり、その一方で会員の年間参加最多賞賞品として毎年絵を寄贈してくださり、また会報「山旅」の表紙絵を毎号描いてくださるなど、山旅会に多大な足跡を残されたのが藤江画伯であった。

 そんな関係で北のアルプ美術館との関係を知りたくなって山崎館長にお話をうかがったのを契機に、当会の会報を寄贈させていただくことになった。その会報が今年記念すべき第100号を迎えることになり、美術館と画伯の関係を少し深掘りしたくなって昨年の7月に美術館を再訪した。その折山崎館長は「アルプ」に掲載された画伯の絵や画文の他、美術館収蔵の全ての藤江作品を揃えて待っていてくださった。雑誌「アルプ」と画伯の深い関係を知ったのも新鮮な驚きだったが、見せて頂いた作品の中に我々が「山岳画家」としてしか認識していなかった画伯の、花を描いた静物画が多く有ったのには本当に驚かされた。こうした経緯を「山旅」第100号に寄稿したのだが、画伯と親しかった古い会員にとってもこれは驚きだったようである。

 串田孫一氏や畦地梅太郎氏など、当時の山を愛した文学者、芸術家の中に、わが画伯もしっかりとした立ち位置を持たれていたことが改めて確認でき、今は故人となった藤江画伯への敬慕の念を一層強くした北のアルプ美術館再訪であった。

 我々のために所蔵するすべての資料を揃えて頂いた山崎館長には本当に感謝している。美術館の運営にはご苦労も多いことは容易に想像できる。今回のご対応への感謝の思いを胸に、これからも折に触れて北のアルプ美術館を訪問させて頂きたいと思っており、山旅会の会員にも訪問を薦めている。

《山旅会会長》


 

 

貴い小さな自然 アルプの林


 平成4年に開館した、この『北のアルプ美術館』も令和元年で27年になり、27回目の四季が巡り来ました。幼木であった木々も年輪を重ね大きく育ち今は眩しい新緑の風に誘われ、鳥たちが遊び群れております。 

 冬の大雪の日には、身を寄せ合い宿り、初夏には多く草花に彩られる林です。今年も、白樺の梢にカラスの夫婦が巣作りを始めており、雛の鳴き声が楽しみです。この小さな営みが繰り返される歳月が、アルプの精神のように思われます。昭和、平成と熟された温もりを、令和の時代の若い人々の心に響く事を切に願っております。

 『緑風』は美術館からの年一度の年始の挨拶も兼ねた便りです。皆様方のご厚意ご支援に心から感謝いたします。

『アルプの林の四季は貴重な作品です』・・・串田孫一さんの言葉です。

北のアルプ美術館館長 山 崎 猛

 

 

階段手すり設置


 美術館の1階から2階にあがる階段には手すりが無く、足の不自由な方やご高齢のお客様にはご不便をお掛けしておりました。以前より「手すりが欲しい」というご要望にお応えし、今回新しく設置いたしました。

 

 

 

当館掲載雑誌のご紹介

 

◇旅人類 Vol.05 オホーツクエリア編

 BS番組「酒場放浪記」などで知られる酒場詩人・吉田類さんが責任編集を務める雑誌「旅人類」の取材のため当館を訪れ、紹介いただきました。北海道の食や観光の魅力を伝える大人の旅情報誌です。道東エリアがクローズアップされておりますので、旅のおともにどうぞご覧下さい。

共同文化社 1,080円(税込 )
* 美術館でも販売中 *

 

 

 

企画展のお知らせ

■開催中企画展

―北のアルプ美術館 所蔵作品展 パート1― 
2018.9.14(金)〜2019.9.29(日)

■次回企画展

「山下康一作品展」―山を描く・沈黙を描く― 
2019.10.2(水)〜2020.9.27(日)

略歴 山下 康一 (やました こういち)

1965年 群馬県高崎市で生まれる
1987年 独学で絵画を始める
1992年 個展で作品発表を始める
  (長野、東京、北海道、群馬、京都で81回)
2018年 ドイツで個展を始める(2回)

 長野県松本市在住の画家。国内外を旅しながら水彩と墨で風景を描く。

 作家自身が、十年以上心の中で温めてきた「冬の斜里岳」の大作を展示いたします。その他、北アルプスの山々、流氷、水彩など。


  

 

一年間の出来事 季節の便り 2018.6〜2019.5

2018
 8月11日 第2回山の日小さな朗読会 (主催:北のやまねこ)
 9月6日 北海道胆振東部 地震発生、停電により2日間臨時休館
 10月19日 斜里岳初冠雪(昨年より2週間遅い)
 12月23日 北のアルプ美術館クリスマストーク&カフェ
      (主催:アーティスト・イン・シリエトク、北のアルプ美術館)
山崎館長ガイドトーク

長坂有紀トーク・カフェ

  2019年
 1月25日 斜里海岸流氷接岸初日
 5月5日 美術館のエゾヤマザクラ開花(昨年より 3 日遅い)
 5月26日 トークイベント『杉田俊介さんを囲む夕べ 』
      (主催:川口好美さん/協力:北のアルプ美術館、中山芳子さん)

 

 

■ご寄贈ありがとうございました(順不同・敬称略)


大森久雄・伊東徹秀・安田智哉・岡部洋子・萩生田浩・高澤光雄・小笠原輝昭・川口好美・岡田朝雄・渡辺洋一・片山弘明・菊地慶一・太田徹也・蓑浦登美雄・恩田俊二・村田良介・柏原克明・阿部正恒・川村一路・岡田ミナ子・近藤 緑・黒田 忠・水越 武・梅沢 俊・澤田 眞・高澤

▲▲▲ その他各地の美術館、博物館より資料や文献等をお送りいただきました。

◆アルプ基金・寄付金報告− 2018年6月1日〜2019年5月31日

283,880円となっております。
  ご協力、ご支援に心より感謝とお礼を申し上げます。

 

■おしらせ


▲▲ 2019年12月9日(月)〜2020年2月29日(土)まで冬期閉館します。

▲▲ 当館 では、活動のサポートをしてくださるボランティアの方を随時募集しています。男女問わず、一日だけのお手伝いでもOK!関心のある方、希望される方は当館までお気軽にお電話下さい。お待ちしています。

 北のアルプ美術館 0152-23-4000
 

 

編集後記



2019.3.14 ツグミ

▲ 2018年「美術館を行き交う人々があふれ、北海道全体がアートの舞台となる」事を目指した『アートギャラリー北海道』が設立され、当館も参加しています。北海道には大小の美術館や文化施設、資料館等が100以上あり、その土地ならではの温もりを伝えています。外出や遠出、旅の時の楽しみのひとつに美術館、資料館めぐりを加えてはいかがでしょうか。(大島)

▲ 美術館たより「緑風」を読んで下さっている方から「小さい文字を読むのが辛くなってきた」という声をいただきました。今号は今までより字を少し大きくして、読みやすさに配慮し編集しました。お寄せいただく皆さんの声で育てられます。本誌に対する ご意見 ・ ご感想等 ございましたら、 遠慮なくお聞かせ下さい 。(上美谷)

 

  No.27 2019年6月発行(年1回)
 編 集:大島千寿子/上美谷和代       題 字:横田ヒロ子
 発 行:北のアルプ美術館 山崎 猛
 〒099−4114 北海道斜里郡斜里町朝日町11−2
 TEL O152−23−4000 / FAX 0152-23−4007
 http://www.alp-museum.org  メールアドレス:mail@alp-museum.org

 

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