より遠くへ、一歩でも高くへの私の夢は地平線へ向かう行動の旅となった。
それは高山だけではなく、赤道周辺にも何度も通い、極地から砂漠まで本当に多様な自然を目の当たりにするものとなった。まさに地球を実感することだった。
そこで経験したことは、日本列島の動植物は多様な独特のもので、いかに我々が素晴らしい自然に包まれて日々を送っているかを自覚することであった。
日本列島の森の中に踏み込み、静かに緑に身を染めていると、さまざまな音や香りが届いてくる。どこよりも野鳥のさえずりが豊かであることは、森を歩く習慣を持つ人間はよく知っている。この賑やかさは熱帯雨林に決して劣るものではない。
風が林冠をなでるように渡って行くと複雑な響きが伝わって来る。これはいかに多様な種類の木々によって森が構成されているかを物語るものだ。初夏の森の香りについても同じことを言える。色と形の面から見ても、何と多様性に満ち、豊穣な世界であることか、嬉しくなる。
日本の自然は繊細で美しいだけではない。それは地球規模から見てもかけがえのない貴重なもので、奇跡的な存在といえる。
歳を重ねるごとにそんな自然に対し、誇りと感謝の気持ちが深まってくる。
さて、「北のアルプ館」であるが、いつ訪ねても温もりのある至福の時を与えてくれる。ここは今日の社会情勢を考えると、北の地の奇跡と言える。
地方の時代と言われながらも、なかなかすぐれた芸術と向き合う機会を得難いのが現状である。ここは期待以上の作品と出会わせてくれる。
白樺に囲まれた小さな美術館の静かな空間にたたずむ時、いつも私はこのような捉え方をしている。
《写真家》
中屋雅義
「山の道具」絵葉書より |
|
|