緑風トップへ もくじへ戻る

       
北のアルプ美術館たより    No.11 2003・6 
     
十一度目の六月   大谷 一良
 町に住んでいる人たちが一年で一番よいというこの六月の斜里に、北のアルプ美術館の十一年目が廻って来た。ハマナスが咲いてエゾセンニュウの声がしきりだったのはいつの年だったろう。

 山崎さんが美術館開設の決意を串田孫一さんと創文社の大洞さんに伝えたのはもっとずっと前のことだったが、何年かの準備の末に開館のお祝いが行われた日のことは、私もよく覚えている。私は不覚にも前日にぎっくり腰になり、その日は腰を曲げて歩いていたから。

山口耀久さんや三宅修さんや「アルプ」縁の方々が各地から見えた。きれいな灰緑色に塗られた美術館の建物は、まだ若い白樺林とよく似合っていた。

 その林の白樺とほぼ同い年の白樺が一本、東京都下の私の処で元気にしている。山崎さんから送られたもので、斜里の仲間である。斜里の白樺林はずいぶん立派になっただろう。美術館の充実にずっと努めて来た山崎さんと、この十一年目の林の中を歩いてみたい。

北陸のふるさと切手 北のアルプ美術館 企画展 「大谷一良の仕事」展-版画と作品-
2003年6月13日〜2004年5月30日
大谷氏の作品が
切手の背景になりました。
「山を愛した文学者
 深田久弥誕生100年」
 2003年6月13日オープニングパーティが美術館で開催されました。
「新緑をワイングラスに映して・・」心地よい時間を大谷氏と共に過ごしました。「みんなで集う、花を持ち、たくさんの人で集う、様々な笑い声があった。これでいい・・」 *****
 


北のアルプへ   中原 佳雄
 あの日・・・・、
起きぬけの私に、妻が、新聞を開いて見せた。もう十一年も前の事である。

眠い目を擦りながら妻が示す北海道新聞の記事を見たとき、私は頭に電撃の様なものが走るのを感じた。  北のアルプ美術館の設立の記事である。まさかと思った。私の心の中で燃え続けていたアルプの火、山への想い、その詩情が、日本中を歩き回って辿り着いたこんな北の大地で、再び産声を上げようとしているとは!

 私は直ぐに手紙を書いた。
 その頃の私は、まだ宗谷近くの町に居を定めていたので、訪ねていくのは容易であった。だが開館の頃はおそらく多忙を極める事が目に見えているので、 少し時期を遅らせて訪ねていった。

館長、山崎氏と出会ったのはその時が始めてである。そして、たちまち青春の日にザイルを繋ぎあった者だけが持つアルプの友となった。

 いま私は病症を負って、みちのく雫石の、平野と山脈の美しい地に再び一つの夢を開こうとしている。
 北のアルプ美術館ほどの大規模なことは出来はしないが、私自身の歴史書のように描き続けた生活の周辺の絵を三十点ほど並べて、絵を見せるというよりもむしろ自然への傾注をほどくように、珈琲をたて、庭にはただ切り落としただけの木の根株の椅子を並べただけの「山の小さな美術館」「アトリエ喫茶・谺舎」なるものを開館しようとしている。

 せめても気持ちだけは「北のアルプ美術館」の兄妹の様な思いで・・・。  勿論、館内の一隅には、私の人生の師で有るところの尾崎喜八師の書籍や、辻まこと氏の著書が、やわらかな瞑想のいざないとして置くこととし、まだ飾り付けの済んでいない部屋の一隅に積み上げてある。

        平成15年6月15日 記  



スケッチ・中原佳雄
山の小さな美術館 アトリエ 喫茶 谺舎

    雫石・秘境・滝の上温泉
   午前10時〜午後5時(火曜日休み)

あの美しい葛根田川を遡った、
せせらぎと、湯煙りけぶる滝の上の渓谷ぞいに、
小さな喫茶店を兼ねた美術館を開設しました。 お待ちしております。
   


  一年間の出来事
季節の便り 2002.6〜2003.6
 


キンポウゲ
 2002年
  6月09日 「アルプの夕べ」鈴木美代子さん
         フルート演奏会

  7月26日 第20回しれとこ夏まつり「ねぷた」

  7月27日 知床公園線交通規制始まる(〜8.27)

  8月01日 オホーツク圏で猛暑(真夏日)斜里31.2度

  9月18日 曽宮一念展始まる (9.18〜2003.6.1)

 10月17日 斜里岳初冠雪

 10月26日 アルプの林 初雪・記念樹「銀杏」の葉散る

 10月29日 濤沸湖に白鳥の第一群

 12月26日 知床(ウトロ)で水平線上に流氷帯確認

 2003年
  1月09日 知床(ウトロ海岸)で流氷接岸

  3月30日 アルプの林トドマツにカラスの夫妻が巣作り

  4月17日 春一番(南風が強い)

  4月29日 網走で海明け(昨年よりも37日遅い)

  5月06日 知床(ウトロ)で海明け宣言

  6月01日 曽宮一念展終わる     

  6月13日 大谷一良の仕事展」版画と作品 (〜04.5.31)

  6月16日 畦地梅太郎木版画展
         (〜6.22)ギャラリーアド



カワラナデシコ
     
 
 
  アルプの庭の花暦(開花日)の記録  
 ・ふきのとう(3/30)・クロッカス(4/6)・エゾエンゴサク(5/12) ・ エゾヤマザクラ(5/8)・白樺、ナナカマド芽吹き(4/10) ・ スズラン(5/16)・クロユリ(5/30)・ハマナス(6/10) ・ニセアカシア(6/17)
 今年のヤマブドウは豊作の様子

曽宮 一念展 -アルプに残した足跡- を終えて
 目を閉じれば、成長した夏雲が八ヶ岳を越えて来る。一つの塊がばらばらに飛び散っては消える。自由に姿形を変えて、現れては又消える。紅葉が終わる9月18日に展かれ、新緑の頃に終わった曽宮一念展を今、ぼんやりと追想している。
 会場に展示した小作品や、資料、文献の事ではない。創作に執念を燃焼された軌跡は途方もなく広大で深かった。「アルプ」の25年間に限ってみたが迷路に入り込んでしまって抜け出すことの出来ない自分が、今、一人で「東京回顧」を抱いている。
 まだ、曽宮一念は私の中で終わることはなさそうだ。(山崎)
 


 知床が世界自然遺産の候補に
 知床で夢を買いませんか?そう呼びかけたあの運動から26年が過ぎた。新しい形の自然保護のあり方が始まりつつある中で、知床が世界自然遺産候補地に国内で選定された意義は実に大きい。

斜里町には終始変わらない理念と理想があった。「緑と人間の調和を求めて」この言葉が今、斜里町の自然思想の根源になっている。「アルプ」は創刊(昭和33年)から、この事を大きな声ではなく静かに語ってきた。

創刊から終刊を経て45年過ぎた今も変わってはいないし、これからも変わらない。知床の地で成長する「アルプ」の精神をこれからも繋いでいきたいと願っている。
  
 アルプ関係図書案内 幻戯書房
「ちいさな桃源郷」
池内紀編
アルプアンソロジー
アルプの原稿から「旅」を基本にわたしたちのほんの先にある「桃源郷」への誘い。池内流の「アルプ」の再現。出版が楽しみです。           
池内紀編集「ちいさな桃源郷」幻戯書房
串田孫一 「音楽の絵本」平凡社

三宅修  写真集「現代日本名山圖會」実業の日本社
辻まこと「辻まこと全集4」みすず書房

別冊「太陽」山の版画家 畦地梅太郎 
平凡社  平凡社ライブラリー・・続々と山岳名著が復刻刊行!
  
 企画展 ・ ギャラリー案内
■■「大谷一良の仕事」展-版画と作品-
2003・6・13〜2004・5・31■北のアルプ美術館(3-4000)

■■畦地梅太郎木版画展-「やまおとこ」はやさしいー 2003・6・16〜6・22
■ギャラリーアド(3-5555)斜里町 ・大勢の方々と交流の輪が広がりました。

■■「アルプ展」  あとりえ う  2003・6・1〜9・2 町田市鶴川042-734-8586

■■大谷一良版画展-雪を迎える山々-
2003・9・16〜23(21日休)■ギャラリーアド(3-5555)
 お知らせ
名著 定本「八ヶ岳彷徨」平凡社 山口耀久著   
  オリジナル原稿一括B4判352枚
   山口耀久氏からの寄贈により収蔵されました。
   山口氏の著書、著作、資料と共に展示予定です。

「アルプ」の関係資料360点寄贈!  (株)創文社 久保井理津男会長から
 「アルプ」の歴史・軌跡が、執筆者の息づかいが、感じられる資料です。
  ただいま整理中。後日公開したいと思っております。
 一部、アルプ展の写真等は現在開催の「大谷一良の仕事」展に展示中です。


 ご寄贈ありがとうございました(順不同・敬称略)
・山室眞二・村田良介・垣内光子・山崎達・茂木信雄・荒賀憲雄・板倉登喜子・阿部正恒・三輪克子・若林修二・大瀬昇・畦地美江子・渡辺誠弥・山口耀久・手塚宗求・中屋雅義・田中清光・松本照也・高石昌人・佐谷和彦・曽宮夕見・松本冬水・小川隆史・更科チエ・一原有徳・宮川俊彦・石井八重子・永野英昭・串田孫一・内田康男・関根正行・桐沢享・田村宏・木暮翠・小松明・小林満・中原佳雄・田中良・津田清子・川添英一・景川弘道・久保井理津男・虻川民・尾崎喜八研究会・白山書房・美幌博物館・神田日勝記念館・幻戯書房・東京新聞出版局・大阪芸大文芸学科・北網圏北見文化センター・(株)創文社・北海道立北方民族博物館・上湧別ふるさと館JRY・紋別市立博物館・斜里町立知床博物館
・全国の博物館、美術館、記念館より資料や文献等をお送りいただきました。  ありがとうございました。
      
 
アルプ基金 -報告-

10年間積み立ててきました基で
「笛吹く少年」の設置をいたしました。

2002年7月から現在まで、263,657円
となっております。

ご協力、ご支援に心より感謝と
お礼を申し上げます。

北のアルプ美術館
チューリップと太く成長した白樺
  
入館者の記録
総入館者数 26,281人
(1992.6.13〜2003.6.12まで)
町内  9.5%
道内 45.5%
道外 45.0%
   
編集後記◆成長した白樺の梢を見上げる時、幼かった木々達が太くたくましい背を伸ばしていることを痛感する。 この11年間の歳月は北のアルプ美術館にとっても、自分自身にとっても、貴重なものを失いながらも、これからの人生に必要な目標と価値ある糧を得ることが出来たと思う。これからも、高尚なる精神の源流に向かい語り継ぐことを約束します。周囲の環境もそれに相応しく、成長した緑に抱きかかえられた北のアルプ美術館がこれからもみなさんをお待ちしております。中村恭子2月で退職いたしました。後任の長谷川美知子、どうぞよろしくお願いいたします。(y)  
  
緑風-北のアルプ美術館たよりNo.11      2003年6月発行(年1回)
編集:山崎 猛 長谷川美知子             発行:北のアルプ美術館
印刷:(有)斜里印刷    デザイン・イラスト:桜井あけみ(アトリエ・ぽらりす)
〒099-4114 北海道斜里郡斜里町朝日町11-2  TEL 01522-3-4000/FAX3-4007
  

このページの最初に戻る 緑風トップへ戻る もくじへ戻る