もくじ
緑風メニュー
<<No.20へ
No.21へ>>
 
緑風メニュー
  20周年特集号 1992.6〜2012.6

●主な内容

  1. 一本の白樺(大谷一良・版画家)
  2. 居候の安らぎでも至福だ(遠山芳美・斜里町在住)
  3. 緑風・執筆者
  4. 特別展・企画展
  5. アルプの夕べ
  6. 20年の主な出来事
  7. 編集後記

一本の白樺   (大谷一良・版画家)

 私の小さな庭に一本の白樺の木がある。なお元気で、毎年葉を茂らせている。

 山崎さんが先年私の住む東京・八王子に見えた折に、「ああ、可哀そうにー」と一言。何故ならばこの一本の白樺は、「北のアルプ美術館」の敷地の白樺林の植えられるときに遥々山崎さんから贈られた仲間だったからである。街の中だから、伸びる度に丈を詰められ、知床の地で天に伸びる仲間達とは違う、不幸な運命を送っている。しかし、まだ老いてはおらず、遠くから斜里の風を呼んでくれているようだ。

 その山崎さんに初めてお会いしたのは、1980年、東京日本橋・小西六フォート・ギャラリーでの、「氷海」の写真個展の会場だった。その何年か前から文通を続けていたけれども、目の前の写真の精密さと表現の大きさに圧倒された記憶は鮮やかに残っている。

 「北のアルプ美術館」の構想が、串田孫一さん、創文社の大洞編集長に伝えられたのは、それからそう遠くない時であった。山崎さんとの御縁が急に深くなった。設立の打ち合わせに斜里にも伺った。山崎さんの固い決意と「アルプ」への深い思いは、関係者の賛同と支援を得て、北の町に、瀟洒で稀有な内容の美術館として結実した。

 「アルプ」という、創刊時僅か68頁の、 A 5判で地味な形の山の雑誌が、それから25年間、300号に亘る読者を得、このような美術館によってその姿と記憶が保存されているのは、滅多にありえない日本の登山文化のかたちといえる。登山の志向はその後様々に変わったものの、「アルプ」創刊から既に50余年、その美術館は開館以来20年を迎え、新しく串田孫一さんの書斎と居間の復元まで加えることになった。人の一生にも似たこの年月は、山崎さんの願いの年月にも重なり、大きく育った白樺の林と共に、この北の町に得難い姿を残して行くことになるだろう。


大谷一良「山の花」絵葉書より

 

 

居候の安らぎでも至福だ (遠山芳美・斜里町在住)

 「美味しいコーヒーが届きましたよ、息抜きに来ませんか・・・」山崎さんの奥様「千寿子さん」からこんな優しいメールを時折戴く。95歳になる高齢の母を介護している私を思っての心温まる誘いに甘えて何度か山崎宅を訪れた。2人揃って迎えてくれる様は、人を思い遣る気持ちの大切さを何故か自然なままに感じさせるものがあり、まるで我が家に帰ったような錯覚に陥る程心が安らぎ、何とも不思議だ。

 自家焙煎のコーヒー、丁寧に時間をかけ愛情を注ぎ込むかの様に入れて戴くと何と美味しいことか、絶賛と言うか絶品と言うか何れにしても決して過言ではない。

 ゆったりと椅子に座ると、廣い居間の天窓からも、中庭を見渡すベランダ越しの廣い窓からも柔らかな陽射しが差し込み心地よい。その時々にめぐる可憐な花々やそれを取り巻くような樹々の季節毎に移ろう葉の色も圧巻だ。うとうとしたくなりながらも、時には山崎さんの知性に溢れた話に耳を傾けているとゆったりと時は流れていく。

 そして物静かな2人の何気ない会話を聴いていると、何故か不思議と私も優しい気分になり、少し疲れている心に新たな息吹を感じさせてくれているようだ・・・まさしく居候の安らぎでも偽りのない至福の一時とはこういうことを言うのだろう。

 ここでコーヒーを飲んでいると、いろいろな事が想い出される。東京から来た友人達、山の仲間達とアルプ山荘を使わせてもらい、夜を徹して飲んで語らった事。美術館になっている建物は元三井農林の宿舎で、仕事の関係で何度か訪れた事。20年経ち大きくなった白樺の林と美術館に姿を変えた建物が、調和のとれた場所として静かな一角になっているのを見ると、時の流れを感じる。

 まだ時間に余裕のあった頃、美術館に足を運ぶ事が多かった。事務室に行くと、作業があるとお手伝いしながらお喋りをする。スタッフの一員になったような気分で嬉しさがある。私の想いのある美術館。今後も 斜里町 民の財産として誇りにしていきたい。

 

緑 風 ・ 執 筆 者

No.1(1993年)
 報道関係記事掲載

No.2(1994年)
 水野 隆夫 *アルプの崇高な理念を守り語り伝える・・・
 大高 慶子 *古いピアノ

No.3(1995年)
 桜井あけみ *地の涯 (シリエトク) (知床)から蘇える緑

No.4 (1996年)
 内田 康男 *山男の危機

No.5 (1997年)
 小松 長三 *流氷、そしてアルプ
 伊井 温彦 *小さな美術館(新聞記事から)

No.6 (1998年)
 桜井あけみ *6月のアルプに 

No.7 (1999年)
 有田 忠郎 *北のアルプ美術館 

No.8 (2000年)
 桜井あけみ *八年目の新緑の季節に 

No.9 (2001年)
 三栖 寿生 *北のアルプ美術館と共に歩む道
 (日本山岳会会報より抜粋)

No.10 (2002年)
 右田久美子 *アルプへの旅(感想文集から)

No.11 (2003年)
 大谷 一良 *十一度目の六月
 中原 佳雄 *北のアルプへ

No.12 (2004年)
 重本恵津子 *路傍から
 二部  黎 *オンネヌプリ(斜里岳)

No.13 (2005年)
 国松 俊英 *星野道夫の本棚
 尾ア  良 *斜里で培う「生きる力」  

No.14 (2006年)
 大谷 一良 *遠い日のこと
 今村晋一郎 *串田孫一さん
 二部  黎 *闇に厭きた風
 山崎  猛 *串田先生
 富沢 裕子 *「次世代のアルプ」
 広野 行男 *駆けあがる緑の中で思うこと

No.15 (2007年)
 辰濃 和男 *串田さんのこと
 根来 譲二 *賢者の窓 −串田先生の書斎移築に寄せて−
 河村  勁 *山崎さんとの出会いなど
 小森 美香 *緑風によせて

No.16 (2008年)
 今村晋一郎 *50年が過ぎた
 高澤 光雄 *「アルプ」に魅せられて
 山田 和弘 *「清岳荘」に魅せられて
 中山よしこ *旅するアルプ

No.17 (2009年)
 尾崎 栄子 *『アルプ』余香
 重本恵津子 *円と楕円
 小野木三郎 *「アルプ」と私
 平野 紀子 *めぐり逢い

No.18 (2010年)
 岡部 牧夫 *斜里 一九六七年八月
 竹久 野生 *二つの想い
 菊地 慶一 *命の火ちろちろ
 栂嶺 レイ *意識の交信 

No.19 (2011年)
 水越  武 *「北のアルプ館」によせて
 橋倉あや子 *「アルプの輝き」
 駒村 吉重 *「なにかの縁があるのだろうなぁ」
 熊谷  榧 * 山崎猛さんの夢「北のアルプ美術館」

No.20 (2012年)
 田中 清光 *自然
 加藤 建亜 *時空二十年
 塩谷 マキ *アルプのこと 山崎さん串田さん夫のことなど
 渡辺 誠弥 *『遠い風景』

特別号( 2012年)
 大谷 一良 *一本の白樺
 遠山 芳美 *居候の安らぎでも至福だ

 

 

 

特 別 展 ・ 企 画 展

1993・ 1・16  アルプ作家年賀状展
   2・10  今井雄二・喜美子コーナー設置
   10・20  荒賀憲雄 山の詩集「霧の中に」詩稿・原画展

1994・ 2・ 5  串田孫一 限定本と書簡展示
   4・27〜 2周年特別企画展
       木口版画とデッサン画による「山の道具展」
        (6・28まで)
       栗田政裕 木版画10点・中屋雅義デッサン画8点
   6・30〜 串田孫一作品展・熊谷榧水彩画展・坂本直行水彩画展
       (8・30まで)
   7・10〜 特別展 限定版「山のABC展」(1995・6・10まで)
   7・10〜 山室眞二「芋版画の世界」12点(9・10まで)
   8・28  特別展示 吉積長春(日本画家)「ウトロ港」展示

1995・ 6・14  「アルプ」女流作家二人展 宇都宮貞子・岩見禮花
   9・ 6〜 「アルプ」印刷用銅版展 串田孫一限定版著書展
       (1996・4・28まで)

1996・ 5・ 1〜 書票展「もうひとつの本の楽しみ」(7・28まで)
   8・14〜 尾崎喜八展 (1997・4・13まで)

1997・ 4.16〜 一原有徳「アルプと北海道の山」(9・28まで)
   6.18  「西 常雄 彫刻常設展示室」設置公開
   10.1  小展示「辻まこと 山の画」・「畦地梅太郎 山の版画」
       「一原有徳 アルプ原稿・原画展示」

2002・ 9・18  曾宮一念展「アルプに残した足跡」(2003・6・1まで)

2003・ 6・13  大谷一良の仕事展「版画と作品」(2004・5・30まで)

2004・ 6・16  「アルプに集う人々―直筆原稿展」(2005・5・31まで)

2005・ 8・ 6   豊饒な草原に想いを馳せる「アルプ」作家・作品展
       (2008・6・1まで)

2008・ 6・11〜 角田 勤「アルプコレクション展」(2009・5・30まで)

2009・ 6・ 5〜 竹久野生絵画展「アンデス高原から」(2009・9・20まで)
  ・ 6・ 5〜 アルプ作家「限定本」&「特装本」展(2010・5・30まで)

2010・ 6・ 9〜 水越 武・写真展「光と風」・「山の詩人たち展」
       (2011・5.29まで)

2011・ 7・ 1〜 尾崎喜八「アルプ」原稿資料展・坂本直行スケッチブック展

2012・ 3・ 1  岡部牧夫展示コーナー設置

 

 

アルプの夕べ

−講演会・音楽会−

1997・ 7・12 第1回「アルプの夕べ」
      5周年記念フルートとハープによる「木の響きコンサート」
      ( 斜里町 交流記念館)

1998・ 7・ 3 第2回「アルプの夕べ」
      美術館コンサート
      「フルートとハープ・アルプの夕べ」
      森の響きに包まれて98

1999・ 7・21 第3回「アルプの夕べ」
      フルートとハープのコンサート
      (ゆめホール知床・ホワイエ)

2002・ 5・11 第4回「アルプの夕べ」
      10周年記念講演会「アルプの夕べ」 武田 厚
   5・12 10周年記念講演会「アルプの夕べ」 田中 良
   6・ 9 第5回「アルプの夕べ」
      鈴木美代子フルート演奏会

2003・11・ 1 第6回「アルプの夕べ」
      池内 紀 講演会
      「桃源郷を見つける」
      (ゆめホール知床)

2005・ 9・17 第7回「アルプの夕べ」
      詩の朗読会・谷川俊太郎
      「みみをすまして」
      (ゆめホール知床)

2006・ 8・23 白柳 淳 ギター・ミニコンサート
      (美術館にて)

2007・ 6・ 9 宮村 将広 オカリナ・ミニコンサート(美術館にて)

2008・ 8・17 白柳 淳 ギター・ミニコンサート(美術館にて)

2009・ 9・19 第8回「アルプの夕べ」
      竹久野生お話し会『アンデス高原から』絵画展を終えて
      (しれとこくらぶ )

2010・ 9・11 第9回「アルプの夕べ」
      水越 武 講演会 ―穂高からヒマラヤへ―
      (美術館2F写真展会場)

2011・ 8・12 第10回「アルプの夕べ」
      上山美恵子(ソプラノ歌手)『夏の夜のひとときを…』
      (しれとこくらぶ)

 

20年の主な出来事

1992・ 6・13  美術館開館・新緑に祝福されて
   9・11  台風17号により床下浸水

1993・ 1・15  釧路沖地震
   7・12  北海道南西沖地震

1994・ 4・13  長野県から小さな
       古いピアノ到着
    10・4  北海道東方沖地震
       被害により30日間休館

1996・ 3・30  入館者1万人を記録 

2002・ 2・ 2  入館者2万人を突破
2002・ 6・10  開館10周年記念事業 鈴木吾郎作・ブロンズ「子供の情景・響き」設置

2003・11・ 5  入館者3万人達成

2004・ 7・ 1  北のアルプ美術館ホームページ開設

2005・ 4・26  大洞正典氏 (元創文社編集長) 死去 (89歳)
   7・ 8  串田孫一氏(哲学者・アルプ編集責任者)死去(89歳)
   7・17  知床が世界自然遺産に決定
   7・24  彫刻家・二部黎氏の「生命」4基白樺林の中に設置

2006・11・26  串田孫一書斎復元資料搬出作業(東京)(12・3 斜里に到着)

2011・ 3・11  14時46分 東日本大震災発生

2012・ 6・15  串田孫一の仕事部屋 書斎・居間復元 公開
   6・17  開館20周年記念講演会 田部井淳子氏(ゆめホール知床)予定

 

 

編集後記

編集後記  ▲1992年6月13日に開館してから、今まで人が成人と20年の歳月は春風駘蕩ではなかった。開館の時に見た笑い顔、聞いたあの声が今はない。大切な人、尊敬した人、お世話になった人、を見送り亡くしてしまった。失うと同時に出会いもあり、励まされ絆の深さも教えられた20年でもあった。その人を思い追想し、感謝とお礼を心から申し上げたいと思っている。
  「緑風」にご執筆を戴いた方々、「アルプの夕べ」などへご協力戴きました先生に改めてお礼を申し上げます。明日への夢に向かって、一歩づつ前進いたしますので見守って下さい。(山崎)

 

  特集号 2012年6月発行
 編 集:山崎 猛/大島千寿子/上美谷和代  題 字:横田ヒロ子
 発 行:北のアルプ美術館 〒099−4114 北海道斜里郡斜里町朝日町11−2
 TEL O152−23−4000 / FAX 0152-23−4007
 http://www.alp-museum.org  メールアドレス:mail@alp-museum.org

 

もくじ
緑風メニュー

<<No.20へ

No.21へ>>