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  No.21  2013.6

●主な内容

  1. そしてあれから54年 私の礼文島<池田 宏>
  2. 串田本のあれこれ(上田茂春)
  3. Silence is golden(大森久雄)
  4. 遥かな日々(鮫島淳一郎)
  5. 北のアルプ美術館開館20周年記念式典
  6. アルプ関係図書のご案内
  7. 今後の事業予定
  8. 春の嵐 オホーツク管内に猛威
  9. 一年間の出来事 2012.7〜2013.6
  10. ご寄贈ありがとうございました
  11. おしらせ
  12. 編集後記

そしてあれから54年 私の礼文島   (池田 宏)

 1958年(昭和33年)、晩秋の礼文島は窮極の寂寥の美で私を魅了した。夕刻の船泊の村は、鰊大漁と書かれた古い木桶を転がして烈風が吹き抜け、家々は杉皮葺の屋根に細い煙突を立てて息を潜めていた。その中で一夜の宿のおかみさんは東京から独り旅の学生を暖かく迎え入れてくれた。ルンペンストーヴの薪の炎だけが明るかった。耳の奥にブラームスのクラリネット五重奏が流れては消えた。

▼後年、〈音楽の絵本〉でも礼文島をテーマに取り上げたことがある。そこで、(夜になると誰かクラリネットを吹いていた)串田先生の礼文島と私の礼文島が期せずして重なった。私は是非もう一度、礼文島を訪ねてみたかった。

 そして昨年2012年6月、やっと念願の島を再訪した。54年前礼文島で撮った何枚かの写眞を携えて――。

▼島は当然のことながら全く変貌していた。杉皮葺に煙突の家々は、都会と変わらないモダンな姿となってカラフルな屋根を明るく光らせ、郵便局は洒落たコンクリートの外観にオレンジ色の旗を翻えしていた。かつての地の果て、スコトン岬は観光バスが押し寄せる観光スポットとなって大勢の人が群れていた。

▼私はスコトン岬から浜中、船泊を?て金田ノ岬まで、今は立派に舗装された海岸沿いの10粁ほどの道を感慨深く歩いた。途中出会った昆布漁師さんに持参した昔の写眞を見せると、「オレもこの(礼文丸)にはよく乗ったよ、ひどく揺れてさァ」と言う。船泊のスーパーの古老は(港で見送る頬かむりに角巻き姿の女性達)の写眞の中に昔の知人の顔を見付けては、「あ、これは誰さんだ!これは誰さんの亡くなったおふくろさんだ!」と懐かしがる。(荒れた海岸の砂利道を巫山戯ながら登校してくる6人の小学生)の写眞を見て、「こいつは今、漁協にいる奴だ、連れてってやるよ」と車で案内してくれた親切な人もいた。生憎くその(昔の小学生)は不在で会えなかったのが唯一の心残りではあったが――。ともあれ私の礼文島への半世紀の時空を超えた想いをやっと見届けたような旅になった。

▼島からの帰途、今回の旅のもう一つの主要テーマ「串田孫一の仕事部屋」を斜里に訪ねた。山崎館長御夫妻に壮大な事業の完成を心からお祝いし、(書斎の串田先生)にも、「また礼文島へ行って来ましたよ」と報告した。

《元東京エフエム制作》

 

「音楽の絵本」のテーマ曲

ヴィヴァルディの室内協奏曲ニ長調RV94第2楽章

 

串田本のあれこれ  (上田 茂春)

 2008年に発表した拙著『串田孫一書影目録』(上下巻)には、串田本のスタートとなった『乖離』(著者名:初見 一、昭和12年)から『流れ去る歳月 日記』(串田孫一集  8、1998年)まで、600冊ちかい著作が収録されている。この他に、アンソロジーや序文などが掲載された本を加えると優に1000冊を超えると忖度されるから、今更ながらその多さに驚かされる。

 実は『串田孫一書影目録』(上下巻)に収録した著作を完璧に揃えているところは、私はもちろん、串田家をはじめ串田本蒐集家を含めて誰一人として存在しないはずだ。何故なら、とんでもない稀覯本が存在するからに他ならない。中でもマリイ・バシュキルツェフ著の訳本『日記』(1941年、冬至書林)は所蔵者を見つけ出すことができず、『串田孫一書影目録』に掲げることができなかった。もう1冊、ベルグソン著『夢』(1941年、白水社)も難渋した1本である。最終的には串田家所蔵本を正誤表の裏面に書影を掲げることができたが、この本は最終校正本のようであって市販本ではない。もし、『日記』と『夢』の訳本2冊が新たに発見されれば大きな話題になるに違いない。

 串田先生は戦前、専門の哲学と併行して文学作品を初見一というペンネームで発表していた。著作は前記の『乖離』の他に、『白椿』(昭和13年、懷風堂)、『萍』(昭和15年、十字屋書店)、『牧歌』(1941年、冬至書林)、共著『白羊宮』(獸帶叢書、昭和14年、十字屋書店)がある。何れも稀覯本の類いだが、とりわけ『牧歌』の完本かつ極美本の入手は容易でない。体裁は無綴じ、限定100部、別添えとして W・A・Q氏による絵が経木に描かれているのだが、これが破損しやすく完本が少ない。そのため、バブル期には古書価が100万円以上に高騰、串田本蒐集家の度肝を抜いたものだった。いうなれば、初見一本は串田本蒐集の肝でもあるのだ

 串田本を一暼してみると、児童書が結構あることに気づかされる。その1冊、昭和26年に小峰書店から発行された『新イソップ』(小学生文庫 68)は、「童話、3・4年生向」の本で、サイズは18.3×16.8cm、52ページという薄い冊子である。ところが探すとなると意外にも稀覯で、手強いことを思い知らされたのだ。結局、この本は入手することができず、知り合いの串田本蒐集家から拝借して幸いにも書影を収めることができた。

 串田本蒐集の一端を記してみたが、将来的には「北のアルプ美術館」が完璧なコレクションを蔵することを願っている。

《日本山書の会会員》

 

 

Silence is golden.  (大森 久雄)

 すでに北海道新聞( 2007年11月8日夕刊)ほかに書いたテーマなのだが、やはり何度でも言いたい。それはだれでも知っている言葉 Silence is golden. 沈黙は金。

 世の中には音があふれている。代表的なのは鉄道駅や列車内のアナウンス。執拗に、絶え間なく聞こえる。ヨーロッパの鉄道では、アナウンスはめったに聞こえない。次の停車駅名をおよそぶっきらぼうに言う程度。静かなものだ。

 山もまた同じ。北海道の山でも本州の山でも、ザックに鈴を付けている人がいる。クマよけのためだ。わたしも北海道の山歩きではクマがこわいから、ひとりでは入らないようにしているけれど、 15 人のグループに参加してトムラウシに登った時のこと、何人ものひとのザックで鈴が鳴っていた。それは静かな山の中では異音であり、むしろ一種の騒音でもあった。

 私は山歩きの最大の魅力は静けさだと思う。岩角に吹く風の音、木々のそよぎ、沢を流れる水音・・・。そうしたものこそが山では宝である。武満徹に『音、沈黙と測りあえるほどに』という書名の著作があるが、音というのはそういう性格のものである。クマよけのための鈴は必要なものであろう。ただし、 15 人もの多数で固まって歩く時に複数の、それも相当数の鈴が鳴る必要があるだろうか。 Silence は静けさ、静寂でもある。山では静寂こそが金なのだ。

 話の舞台が変わって、だいぶ前の朝日新聞投書欄に、やめてほしいコンカツ、という話が出ていた。記憶する内容は、静かな美術館で、コンコンカツカツと靴音をたてて歩く女性がいる、そういう靴をはいて美術館にこないでほしい、というものだった。モネの大作『睡蓮』があるパリのオランジュリー美術館での経験だが、日本の婦人団体が入ってきて、その話声のにぎやかなこと、静寂がふさわしいモネの絵が哀れだった。係員が silence と声をかけていたけれど効き目なし。

 山も美術館も静寂こそが金である。斜里のこの美術館のいいところは、その silence がつねに保たれていることだ。大事にしてほしい雰囲気である。

《編集者》

平野安雄・画

 

遥かな日々   (鮫島淳一郎)

 1962年のことでありますから、もう半世紀も前のことになります。ある日一通の手紙をいただきました。「アルプ」に寄稿してほしいという依頼でありました。たしか編集に携わった三宅 修さんであったように記憶しております。「アルプ」といえば何か格調高く、近寄りがたく、大人の「山の文芸誌」の印象であって、とてもという感じがありました。

 それでも勇を鼓して(大袈裟かな?)掲載させていただいたのが「渡島大島へ渡る」でありました( Alp 52)。その後二編ほど、雪崩に巻き込まれた話、石狩岳や音更山、沼の原を訪ねた夏山など寄稿させていただきました。

 さて時の流れは勝手に進みます。最近になって、とある事が切っ掛けとなって、山崎 猛さんと初めてお会いする機会を得たのです。伺えば知床半島に近い斜里に「北のアルプ美術館」を、「アルプ」の創始者串田孫一さんをはじめひたむきに自然を謳歌した人々の心の集大成として設立されたと聞きました。

 戴いた「串田孫一の小宇宙」ほかに目を通すと、懐かしい方々のお名前とその著書を走馬灯のように思い出させてくれます。

 孫一さんの「忘れえぬ山」や「山のABC」、「山のパンセ」などをはじめ畦地梅太郎さんの「山の眼玉」、「山のでべそ」、辻まことさんの「山の声」、「山からの絵本」など、そして大谷一良さんらが担当された版画による表紙は素朴でありながらなにか懐かしいのです。忘れかけていた頃をなつかしく想いださせてくれました。

 北辺のこの地、秀峰斜里岳を望むこの地に、山や自然への想いを綴る語部として「北のアルプ美術館」は生まれたにちがいありません。館長の山崎 猛さんをはじめ、上美谷和代さんなどスタッフの方々の御健闘を心から願っております。

《自然環境研究室主宰》

エゾエンゴサク
シレトコスミレ
ツリフネソウ

鮫島淳一郎・画
画文集 北ぐにの花暦より

 

 

北のアルプ美術館開館20周年記念式典

 昨年 2012年6月15日、北のアルプ美術館開館20周年と「串田孫一の仕事部屋」書斎・居間復元公開を記念して式典が行なわれました。

 式典には串田孫一氏の奥様の美枝子さん、次男の光弘さんも出席され、関係者約 60名が参加下さいました。式後、敷地内には記念樹としてコブシとカツラの苗木4本を植樹。

 夕方5時からは復元された居間にて尾崎喜八氏が命名した「コンソール・ゼフィール」のメンバーによる笛の演奏会。終了後は地元の食材を使用した軽食と果実酒などを用意し、参加された皆様と楽しい時間を過ごしました。


     記念植樹
     ◇美術館開館20周年記念 (コブシ)
     ◇串田孫一の仕事部屋復元記念(カツラ)
     ◇尾崎喜八生誕120周年記念 (エンジュ)


♪ミニ・コンサート
−50年前の串田邸での合奏を回顧して−
演奏者 (岡本寛志さん・永野英昭さん・伊藤和明さん
串田光弘さん・杉本賢治さん)

 

アルプ関係図書のご案内

◆山口耀久著  「アルプの時代」

  2013年9月発売予定   山と溪谷社刊   予価3,000円

 雑誌「山と溪谷」に2006年4月号〜2007年6月号まで連載された『アルプ豊饒の時代』を一冊にまとめた山口耀久さん渾身の作品。
  

 

今後の事業予定

◆金沢山岳文庫
  ― 斜里へ ―

 故斎藤俊夫さんが「金沢山岳文庫」として個人的に蒐集した蔵書(一部)が当館に寄贈されました。皆様にご覧いただけるよう再来年の公開展示に向け只今準備中です。

 

 

春の嵐 オホーツク館内に猛威

 去る 4月7日、全道的な暴風雨で、最大瞬間風速 が斜里町 で 37.9b(観測史上最大)を記録する大荒れの天気となり、アルプの林の大きな樹10数本が根こそぎ倒れたり、傾いたりと大変な被害でした。全国ニュースにもなり、各方面からご心配とお見舞いのお電話をいただき、ありがとうございました。

一年間の出来事 季節の便り 2012.5〜2013.5

2012年
  6月17日 開館20周年記念講演会 町民への感謝として
        田部井淳子氏 「人生は8合目からがおもしろい」
  6月20日 「串田孫一の仕事部屋」一般公開
  6月30日 「尾崎喜八生誕120周年」を記念してアルプの林内に
        尾崎栄子さんと親しい方々による記念植樹

〔田中良 絵画展にて〕
 10月17日 田中良チャリティー絵画展(〜28日)
 10月22日 斜里岳初冠雪(昨年より20日遅い)

2013年
  1月16日 流氷接岸(昨年より 9日早い)
  1月18日 1月の観測史上最低となる
        氷点下 27.8度を記録
  4月13日 アルプの庭でクロッカスが咲く
  5月25日 昨年より23日遅れでアルプの桜が開花

 

 

■ご寄贈ありがとうございました(順不同・敬称略)

野本 元・網走山岳会・梅沢 俊・中村 誠・田中清光・浜田加寿子・滝田三男・青柳 健・野口冬人・田部井淳子・阿部 永・澤田 眞・大谷一良・清 陽子・中原健二・吉井 裕・川嶋恂子・栗田政裕・池田 宏・恩田俊二・太田徹也・平出眞治・朝倉佳文・大池 建・二木久榮・舟山廣治・内田康男・菊地慶一・小川勝一・田中 良・首藤憲彦・萩生田浩・山室眞二・畦地美江子・清水義夫・森田秀子・太田惇子・八木祥光・片山弘明・関根正行・富沢裕子・油井孝裕・牛尾 孝・駒村吉重・木村知博・窪田富男・小田島護・鮫島惇一郎。大森久雄・重本恵津子・喜多村慧子・水越 武・高澤光雄・兜カ京書房・株虫R書房・椛n文社・且Rと溪谷社・東京新聞出版部・ 斜里町 立知床博物館・美幌博物館・北海道立北方民族博物館・北海道立釧路芸術館・植村冒険館・田淵行男記念館・神田日勝記念美術館・札幌芸術の森美術館・高知県立文学館・ 呉市 立美術館

▲▲▲ その他各地の美術館、博物館、記念館より資料や文献等をお送りいただきました。

アルプ基金−報告− 2012年5月1日〜2013年5月31日

  1,140,305円となっております。
  ご協力、ご支援に心より感謝とお礼を申し上げます。

 

■おしらせ

▲▲ 冬期間の閉館をお知らせします。 2013年12月16日(月)〜2014年2月28日(金)まで閉館します。
 ただし、事前にお電話、インターネットでのメール連絡等、また、在宅時はインターフォンでお知らせいただければご案内が可能ですので、ご利用ください。

編集後記



2013.4.25  カタクリ

▲ 4月7日の暴風雨は、長く美術館を見守ってくれていたニセアカシアや白樺の大木を何本も根こそぎ倒していきました。その無残な姿に心が痛み、自然の恐ろしさを見る思いでした。修復作業は思いの他大変で、今も少しずつ進めています。これからまた植樹をして、新生アルプの林になります。10年20年と美術館と共に成長し見守ってほしいと思います。アルプの林で若木を見たら新参者ですが宜しく !!(大島)

▲ 昨年の美術館20周年記念式典には、遠方よりたくさんの方々にお越しいただき、心より御礼を申し上げます。早いもので私もこの 8月で6年目になろうとしていますが、時々は自分を振り返って初心を忘れないように努めていきたいと思います。これからもよろしくお願いいたします。(上美谷)

▲ 昨年の11月からスタッフの一員となりました。当美術館において仕事ができる喜びを実感しております。何卒よろしくお願いいたします。(石田)

 

  No.21 2013年6月発行(年1回)
 編 集:大島千寿子/上美谷和代/石田二三夫  題 字:横田ヒロ子
 発 行:北のアルプ美術館 山崎 猛
 〒099−4114 北海道斜里郡斜里町朝日町11−2
 TEL O152−23−4000 / FAX 0152-23−4007
 http://www.alp-museum.org  メールアドレス:mail@alp-museum.org

 

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