ボクは臆病だから登山はしないけれど、山は大好きだ。大学は油絵を専攻したので、箱根の駒ヶ岳、大島の三原山、福島の磐梯山、北海道では大雪山、そして斜里岳とずい分山の絵ばかりを描いていた。
ボクはいつも思うのだ。山は神さまの棲むところで、人間などは行ってはいけないところだと・・・。
全国百名山めぐりで登山ブームである。しかも高齢者に人気で、まるでスタンプラリーのように軽装で山を歩き、遭難事故で多大な迷惑をかけている。
ボクは登山家と修業者以外は山に登らない方がいいと思っている。心ない人によってゴミ捨て場になり、盗掘によって高山植物は荒らされ生態系に変化がおきている。
今、観光や趣味で山に入る人たちは、昔の富士登山者たちが「六根清浄(ろっこんしょうじょう)お山は晴天」と唱えながら山に登ったことを知っているのだろうか。
「六根」とは、迷いを生じるもととなる六つの器官( 眼 ( げん ) 、 耳 ( じ ) 、 鼻 ( び ) 、 舌 ( ぜつ ) 、 身 ( しん ) 、 意 ( い ) )のことである。「六根清浄」とは、六根からくる迷いをたち切って、清らかな身になることだ。
アイヌの人たちが「カムイミンタラ」と呼ぶ山の聖地を、人間などが汚すよりは、遠くから美しい山々を眺め、心の中で「六根清浄」を唱えながら山を絵に描くのもいいものだ。
山に向っていうことなし、今も山を描くのが一番好きだ。清々しい気持になれるからだ。
《北海道手づくり絵本の会会長》
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手づくり絵本
「山に向っていうことなし」
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中央アルプス 八ヶ岳
絵・松岡 義和 |
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