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緑風メニュー
  No.26  2018.6

●主な内容

  1. 幻の蝶、二種 <中村 誠>
  2. 山に向っていうことなし <松岡 義和>
  3. オホーツク賛歌 <伊東 徹秀>
  4. 遠く離れて <阿部 正恒>
  5. 斉藤俊夫山岳文庫オープン記念 ONE DAY BOOK CAFE 2017年6月18日
  6. 串田和美さん来館 2017年9月9日〜11日
  7. 第1回まごいちカフェ開催 2017年12月1日
  8. 企画展のお知らせ 高橋清展(2017年9月15日〜2018年9月9日)
  9. おすすめ本のご紹介
  10. 一年間の出来事 季節の便り 2017.6〜2018.5 ※アルプの林に来る野鳥
  11. ご寄贈ありがとうございました
  12. おしらせ
  13. 編集後記

幻の蝶、二種     <中村 誠>


 串田孫一の著書に初めて触れたのは、父親の書棚から抜き取った『博物誌』3冊だった。中学生の時である。夜寝る前に読むのだが、一気に読み終えるのが惜しくて、一晩数篇ずつに限って読んだ。遠い昔のことになったが、いまもはっきり覚えている箇所が「にむらさき」の項である。フリードリヒ・シュナックの『蝶の生活』やヘルマン・ヘッセの本の中ではこの蝶が飛び廻っているというのに、この蝶は実在しないというのである。実は、 Schillerfalter は「こむらさき」とすべきなのに、最も信用されていた独和辞典が「にむらさき」と誤って載せたことから、ドイツ文学の邦訳書の中ではこの蝶が飛び廻ることになったというのだ。

 こういう「幻の蝶」は他にもまだいる。『毛皮のマリー』で美輪明宏が「ウラギヒョウモン、ウラギヒョウモン……」と大声で叫ぶ場面が頭に残っていて、戯曲を読み直してみた。記憶には誤りがあり、「ウラギヒョウモン」の言葉はマリーではなく、その養子である美少年の台詞の中だった。『毛皮のマリー』では、蝶マニアの少年のためにこの蝶が「応接間の草原」に放たれるのである。これはアマゾン奥地かインパールの森の中にでも棲息する蝶なのだろうか? おそらく、本来は「ウラギンヒョウモン」であるところを、寺山修司が昆虫図鑑から書き写す際に誤ったのが、そのまま通用しているのだろう。

こむらさき
串田孫一「博物誌T」より

 「ウラギヒョウモン」の命運は、これからの寺山人気と評価次第だが、しばらくは「幻の蝶」として舞台上で文庫の中で舞い続けるに違いない。しかし、一方の「にむらさき」はもう絶滅寸前のようだ。この「幻の蝶」は古書というフィールドに棲息するが、探索不足で未だ出合ってはいない。そのうちに「にむらさき」は滅びてしまうに違いない。その時、串田孫一の『博物誌』はこの「幻の蝶」が存在したことを示す貴重な資料となるだろう。

《元愛知県立高等学校教諭》

 

 

山に向っていうことなし   <松岡 義和>


  ボクは臆病だから登山はしないけれど、山は大好きだ。大学は油絵を専攻したので、箱根の駒ヶ岳、大島の三原山、福島の磐梯山、北海道では大雪山、そして斜里岳とずい分山の絵ばかりを描いていた。

 ボクはいつも思うのだ。山は神さまの棲むところで、人間などは行ってはいけないところだと・・・。

 全国百名山めぐりで登山ブームである。しかも高齢者に人気で、まるでスタンプラリーのように軽装で山を歩き、遭難事故で多大な迷惑をかけている。

 ボクは登山家と修業者以外は山に登らない方がいいと思っている。心ない人によってゴミ捨て場になり、盗掘によって高山植物は荒らされ生態系に変化がおきている。

 今、観光や趣味で山に入る人たちは、昔の富士登山者たちが「六根清浄(ろっこんしょうじょう)お山は晴天」と唱えながら山に登ったことを知っているのだろうか。

 「六根」とは、迷いを生じるもととなる六つの器官( 眼 ( げん ) 、 耳 ( じ ) 、 鼻 ( び ) 、 舌 ( ぜつ ) 、 身 ( しん ) 、 意 ( い ) )のことである。「六根清浄」とは、六根からくる迷いをたち切って、清らかな身になることだ。

 アイヌの人たちが「カムイミンタラ」と呼ぶ山の聖地を、人間などが汚すよりは、遠くから美しい山々を眺め、心の中で「六根清浄」を唱えながら山を絵に描くのもいいものだ。

 山に向っていうことなし、今も山を描くのが一番好きだ。清々しい気持になれるからだ。

《北海道手づくり絵本の会会長》


手づくり絵本
「山に向っていうことなし」
中央アルプス 八ヶ岳
絵・松岡 義和

 

 

 

オホーツク賛歌    <伊東 徹秀

 
 おうい、オホーツク、と気持がかの地にむかうことがある。映像になる。たとえば月光に照り渡る流氷原であったり、またたとえば潮風さやかな原生花園であったりする。

 趣味はなんですか、と訊かれると、多少照れながらだが、「日本列島」と応えることにしている。二十代のころからだから半世紀有余、この秋津島≠フすみずみまでが趣向で、この国「日本はふかい」と、だから多くの地方にあまたの体験をかさねてきた。

 国土地理院によると「日本とは四つの大きな島と六千八百余の小さな島から成る群島国家」だそうで、したがって「北限の大島」が北海道本土にあたる。おおざっぱな私見だが、北海道本土は明治以後の自然と人間ぶりで「三つの風土」に分かれている。稲作の北進した南西域と、畑作を拡充させた中央域、それから冷涼のきわみゆえに酪農と畜産にかたむいた北東域とでも分掌できそうで、この北東域の大地に海岸線の漁業を加味するとオホーツク風土≠ニでもいったありさまになる。もっと具体的になら、北海道の宗谷、旧網走、根室三管内、そこにはおよそ四三余万人の人びとが居て、これぞ私見、わが近親感覚のオホーツク日本人≠ェ天真ほがらかに暮らしている。

 雑誌アルプとは昭和四四年、二七歳で掲載の縁ができた。で、北海道各地、八度の紀行を得たが、その半分、冬の根室半島∞知床の初冬∞流氷∞羅臼岳≠ェそのときどきの「おうい、オホーツク」となっている。

 アルプの存在は世渡り流行の人生にあっての不易、秘めて大切なものと感じてきた。そうしてその大切なものが公共集積となり、いま北のアルプ美術館≠ニして建っている。天地人に感謝するしかない。

 斜里のまちは北海道東域知床半島の西半分に展延している。山するどく地のびやかなオホーツク人の里である。

《地域プランナー・コピーライター》

 

 

遠く離れて  <阿部 正恒


 私が《北のアルプ美術館》館長の山崎猛さんに初めてお会いしたのは 、私がまだ 「山と溪谷社」のサラリーマン編集者だった頃である。山崎さんは斜里町で奥さんと二人三脚の文具店を営んでいて、忙しい仕事の合間をみつけては知床半島の自然を撮り続けていた。その膨大な作品の中から流氷の写真だけを選んだ写真集『氷海』を私が編集することになったのである。

 流氷だけの写真集というのは当時でも珍しく、昭和六十年に全国の書店で販売され、山崎さんは写真家として高い評価を得た。写真集の完成を待っていたかのように病気で亡くなられた奥さんのことが今でも忘れられない。山崎さんは早くから社会に出て、苦労しながら事務機・文具・コピーセンターを成功させた立志伝中の人物であったが、流氷と同時に北海道から沖縄までの日本列島に点在する灯台も撮っていた。灯台というのはその使命から、殆んどが撮影困難な僻地にあるものが多く、いかにも山崎さんらしいテーマで、後に「日本の灯台」という写真集も出版して評判となった。

山崎猛写真集「氷海」

 山崎さんは初めて出会った時から自分を育ててくれたのは、山の文芸誌『アルプ』という雑誌で、いつも仕事が終わると『アルプ』を隅から隅まで読み返し、あの雑誌から自分の中に隠れていた感受性や思索の部分を育ててもらったんです、と語っていた。その言い方が娯楽などまだ何もない時代の道北の厳しい自然の中で大人たちに交じって自分を律しながら生きてきた山崎さんの青年像が浮かんできて、私は大きな感銘を受けた。

 山崎さんは現実生活の成功者としてだけではなく、自分を表現する手段として写真を撮り、そのうえ、自分の生き方を形づくる精神的主柱となった雑誌『アルプ』を後世に伝えるため、《北のアルプ美術館》を個人の力で作り上げたのである。

 八十歳を過ぎた山崎さんから毎年北のアルプ美術館たより『緑風』が届くたびに、私は「偉いもんだなあ」と声にならぬ独り言を呟くのである。来年、新しい元号の時代がスタートするが、斜里と東京と遠く離れた場所でお互いに好きなことをしながら、また新しい時代を共に生きたいものだと思っている。

《総合文芸誌『新樹くらぶ』編集長》


 

 

斉藤俊夫山岳文庫オープン記念 
 ONE DAY BOOK CAFE
2017年6月18日


  昨年6月15日、25周年記念に『斎藤俊夫山岳文庫』を公開しました。多くの町民の皆様にご覧いただきたく、オープンを記念し6月18日に1日だけの文庫カフェを催しました。穏やかな天気の中、飲み物とお菓子を用意し、お越しいただいた方々にゆっくりと絵と本の時間を楽しんでいただきました。

 

 

串田和美さん来館 2017年9月9日〜11日


  串田孫一さんのご長男、和美さん(演出家・俳優)が、『雑誌コヨーテ』の取材で当館を再訪されました。孫一さんの仕事部屋が移築されてからは初めての訪問で、感慨深い様子でした。

書斎の椅子に座る和美さん

雑誌コヨーテ( 2017 年 11 月号)
特集 串田孫一の ABC

 

 

第1回まごいちカフェ 2017年12月1日

 

 『雑誌コヨーテ』で串田孫一さんが大きく取り上げられました。孫一ファンや孫一さんをもっと知りたいという方々が集い、孫一さんの肉声の朗読テープや、山崎館長から書斎移築のエピソードなどを聞きました。ゆったりした冬の夜のひと時でした。

【まごいちカフェの会主催で不定期開催の予定です】

 

 

企画展のお知らせ

■開催中企画展

■次回企画展(予定)―北のアルプ美術館 所蔵作品展― 
               2018年9月〜

知床・オホーツクなど、北の大地にゆかりの深い作品も展示します。
  

 

おすすめ本のご紹介



◇遥かなる山旅 / 串田孫一

山に登り自然の中に身を置くことで、自らとの対話を続けた思索家の山のエッセイ・ベストセレクション。四十六篇を収録。
『山歩きの愉しみ』改題。〈解説〉高丘卓
中央公論新社  920円(税別)

 

 


◇美術館へ行こう −ときどきおやつ− / 伊藤まさこ

北海道から鹿児島まで、個人美術館から文学館まで。人気スタイリストが、全国各地の、街に馴染んだ、居心地のよい、 24 の小さな美術館をご案内します。 ※当館も掲載されています!
新潮社  1500円(税別)

  

 

一年間の出来事 季節の便り 2017.6〜2018.5

2017
アルプの林に来る野鳥

アオジ・メジロ・キビタキ・カワラヒワ・シメ・センダイムシクイ・ハクセキレイ・ヤマバト・コムクドリ・アトリ・ツグミ・キレンジャク・ヒレンジャク・イスカ・アカゲラ・ヤマガラ・シジュウカラ・ゴジュウカラ・ヒガラ・ハシブトガラ・シマエナガ・ミヤマカケス・マヒワ・ヒヨドリ・ハシボソガラス・スズメ

6月15日 『斎藤俊夫山岳文庫』公開

9月15日 『高橋清展』開催( 2018.9.9 まで)

10月5日 斜里岳初冠雪(昨年より 2 日早い)

12月1日 第 1 回『まごいちカフェ』開催

 

美術館のサクラとメジロ 5月6日

2018年

2月2日 網走で流氷接岸初日

3月28日 斜里町ウトロで21度を観測
   道内の3月最高気温を95年ぶりに更新

5月2日 美術館前庭のエゾヤマザクラ開花

5月30日 アルプの林でエゾハルゼミの初鳴

 

 

■ご寄贈ありがとうございました(順不同・敬称略)


菊地慶一・田中清光・高澤光雄・岡部洋子・太田徹也・池田貞子・遠山芳美・萩生田浩・伊東徹秀・清水陽子・岡田朝雄・千田耕二・小松昭子・込山富秀・片山弘明・奥山淳志・渡辺誠弥・立石信一・笠島克彦・駒村吉重・松岡義和・伊勢準三・水越 武・梅沢 俊・久保田優一・矢野三四郎・松田まゆみ・阿部扶美子・中野千恵子・大岩寿美子
斜里山岳会・ 伊達市教育委員会生涯学習課社会教育係・武蔵野美術大学芸術文化学科研究室

▲▲▲ その他各地の美術館、博物館、記念館より資料や文献等をお送りいただきました。

◆アルプ基金・寄付金報告− 2017年6月1日〜2018年5月31日

259,409円となっております。
  ご協力、ご支援に心より感謝とお礼を申し上げます。

 

■おしらせ


▲▲ 冬期間の閉館をお知らせします。 2018年12月10日(月)〜2019年2月28(木)まで閉館します。

▲▲ ボランティア活動報告 :草取り、清掃、除雪のお手伝いをしていただきました。ご参加、ご協力ありがとうございました。当館では、活動のサポートをしてくださるボランティアの方を随時募集しています。男女問わず、一日だけのお手伝いでもOK!関心のある方、希望される方は当館までお気軽にお電話下さい。お待ちしています。

 北のアルプ美術館 0152-23-4000
 

 

編集後記



湧水で水浴びするヒレンジャン
2018年4月14日

▲ 5月に入り、花も草も一斉に伸び、草取りに追われる日々が始まった。「ここは広いのだから除草剤を撒いたら…」との助言に高齢の私は心を動かされた。だが待てよ。カラスや小鳥達が子育てをし、蛇や狐やエゾリスが我が庭のように動き回り、多くの鳥達が餌を求めて遊びに来る。秋にはキノコや山ぶどう、コクワが実り、年数を重ねた林の床は山野草が次々と可憐な花を咲かせてくれる。町中の小さな一角だが、人間の目には見えない豊かな自然のエネルギーの場になっているのでは…。幸い昨年はボランティアの方に草取りの手伝いをしていただき、大助かりだった。人間にとっての楽ではなく、ちょっと大変だけど手間暇かけて、虫や鳥や動物達の小さなサンクチュアリを残していこうと思う。昨年はボランティアの方々に庭の草取り、館内作業の手伝い、除雪等をしていただき、多くの方の支えがあって美術館が維持されている事を感じた年でした。この場を借りてお礼申し上げます。(大島)

▲ 訪日外国人旅行者が増加しています 。北海道も特にアジア圏からの旅行者に人気があり、最近では当館にも訪れることが少なくありません。今後も増えていくことが予想される外国人の受け入れ対策として、英語と中国語のパンフレット制作を検討しています。これまでほとんど外国人が訪れることがなかった田舎の小さな私設美術館で、言葉が通じず対応に戸惑っています。(上美谷)

 

  No.26 2018年6月発行(年1回)
 編 集:大島千寿子/上美谷和代       題 字:横田ヒロ子
 発 行:北のアルプ美術館 山崎 猛
 〒099−4114 北海道斜里郡斜里町朝日町11−2
 TEL O152−23−4000 / FAX 0152-23−4007
 http://www.alp-museum.org  メールアドレス:mail@alp-museum.org

 

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