北のアルプ美術館が開かれる。
その準備中に何回も詳しく報告を受けていたので、こうした美術館を作ることがどんなに困難で、次々と思い掛けない問題に突きあたるものかを具体的に教えられた。だが、山崎猛さんを中心にした方々の情熱は常にそれを大きく上回っていた。
その情熱は説明するまでもない。この美術館の雰囲気に触れられた瞬間に理解される筈である。詰りそれは、これまで瘻々山崎さんにお目に掛ってお話を伺い、また優れた多くの写真を見せて戴いて、先ず何よりも自然を大切にする気持が常に内面に漲っていることであった。
60年以上前から山旅を中心にして日本の自然を見て来たが、人間が欲のために自然を傷附け、止め処なく痛め附けている痕跡が、目を覆いたくなる状態で残され、繰返し悲歎の溜息を漏した。
それを自然保護や反公害の運動に発展させることも大切であるが、25年間『アルプ』という雑誌の編輯を手伝いながら教えられたのは、これらの根源にある筈の人間の心の歪みに、銘々が気付くことである。
山崎猛さんが長年に亘って『アルプ』を読んで下さり、その終刊の後にじっくりと考えてこうした美術館を計画されたのは、雑誌の編輯に携わっていた者達の喜びである。
そして北海道の斜里の、この美術館のあるところから、病める地球が見事に癒されて行く爽かな緑が、先ず人々の心に蘇り、ひろがって行くことを願っている。
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